病害抵抗性誘導用LED光源「みどりきくぞう®」開発秘話

 今日、我が国の基幹産業のひとつである農業は、担い手の減少や生産者の高齢化など後継者不足が深刻な課題となっております。こうしたなか、最先端の技術を活用して農作業の効率化と生産性を高める「スマート農業」が注目を集めています。

 当社が開発した病害抵抗性誘導用LED光源「みどりきくぞう®」は、緑色光源が持つ多様な効果が認められ、全国各地で利用が進むなどスマート農業の推進に貢献しております。
 開発者である工藤研究員に、開発に至る取り組みを聞きましたのでご紹介いたします。

  • 「みどりきくぞう®」開発者の工藤研究員
  • ハウス栽培に利用される「みどりきくぞう®」
Q.本光源を開発しようと考えた目的やねらいについて教えてください。

 減農薬栽培に役立つ技術の開発にあたり、光を使って病害を抑えることができないかと思ったのが開発のきっかけです。このため、可視光の中に植物の抵抗性を導き出す作用がないか調べた結果、緑色光にその力があることが分かりました。

 一般的に、光合成に使われる光は、クロロフィル※などの光合成色素により吸収されます。クロロフィルの場合、青色の波長(400~500nm)と赤色の波長(600~700nm)の光は吸収しますが、その中間色である緑色の波長(500~600nm)の光は吸収率が悪いことから、植物の葉は緑色に見えると言われています。そのため、緑色光は植物の光合成にあまり利用されない光とされ、研究の対象としてはほとんど注目されていませんでした。※nm(ナノメートル)=10億分の1メートル

 近年になり、緑色光も、葉の組織に吸収されることはわかってきましたが、残念ながらその作用についてはこれまでほとんど研究されていませんでした。研究を開始した当時は、研究用の単色LEDが出始めたばかりの頃で、種類は赤色、青色、黄色が主流です。しかし、誰も注目しない緑色の光にも何か役割があるはずと緑色のLEDを特注して実験に用いたところ、これまで誰も気づいていなかった、病気に対する抵抗力を引き出す力があることを発見しました。その後、緑色光に特化した研究に長年取り組み、病虫害抑制や生育促進など多様な効果を導き出せたことは、我が国の基幹産業のひとつである農業の振興を支える上において重要な発見につながったと思っています。

※クロロフィル(Chlorophyll)とは、光合成の明反応で、光エネルギーを吸収する役割を持つ化学物質で、葉緑素ともいう。
  • [参考1] 光合成の作用スペクトル
  • [参考2] 緑色光の波長特性
Q.研究を進める上で、社会的な課題解決など後押しする出来事があったのでしょうか。

 研究を始めたのは2005年頃ですが、四国地域では地球温暖化の影響から高温多湿の条件で発生しやすいイチゴ炭そ病が各地で多発しました。イチゴ炭そ病は、難防除病害と言われ、薬剤を用いても抑制が難しい病気です。イチゴの生産農家にとって、病斑が生じたり、株が枯死する炭疽病の発生は、収穫量に大きく影響することから、発生を抑制するための技術開発が不可欠となります。

 私は、かねてより、総合的病害虫・雑草管理(IPM防除※)の一環として農薬散布を抑えた環境に優しい防除技術を開発したいと思っておりましたので、この出来事が研究を加速させるターニングポイントになったと思います。
※IPM防除とは、Integrated Pest Management:総合的病害虫管理のこと。

Q.研究過程で苦労されたポイントは。

  長年の研究成果を踏まえ、「みどりきくぞう®」が製品化されたのが2011年ですから、開始から商品化までのリードタイムに約6年の歳月を要しました。おかげさまで、販売代理店様のご協力により、今日、順調に販売が進んでおりますが、研究開発の段階では、来る日も来る日も研究に明け暮れ、思うような成果を上げることができず、心が折れそうになったこともあります。

 しかしながら、地道な研究を粘り強く続けた結果、植物は、強いストレスを受けると抗菌物質を作ったり、細胞壁を固くするなど、様々な生体防御反応を起こすことが分かり、緑色光も病害への抵抗力を高めるストレス刺激となることを突き止めました。今では、あきらめずに研究を継続して良かったと思っています。

Q.研究過程で明らかになった緑色光の効果は。

 炭疽病の病原菌を接種したイチゴの苗で実験したところ、緑色光を当てた苗は、病斑の発生を抑えることができました。このため、実際の圃場を使用して炭疽病にかかったイチゴの株の周りに健康な株を置いて炭疽病の広がり方を検証したところ、無照射の場合と比べて、緑色光を照射したものは周囲への広がりを約半分に抑えることができることを確認しました。

 また、その後の研究により、緑色光には炭疽病だけでなく、うどんこ病や灰色かび病などにも効果があることが分かったほか、ハダニの防除効果や農作物の品質向上など、生育促進効果もあることが判明しました。改めて緑色光の持つ多様な効能に驚かされています。

  • [参考5] 緑色光が持つ多様な効能
  • 研究成果に関する学会での発表の様子
Q.お客さまニーズを踏まえた新たな取り組み状況について。

 持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向け、環境問題への対応が喫緊の課題となるなか、当社も環境問題への対応を経営の最重要事項のひとつに位置付けております。

 こうした取り組みの一環として、「みどりきくぞう®」は省エネ性能に優れた製品モデルの開発に努め、2017年に市場投入しました。改良型モデルは、LED照明事業のノウハウがあるエコジャンクション㈱[現㈱御幸苑エコジャンクション事業部]様の協力のもと、日亜化学工業㈱製のLED素子を利用した日本製です。中国で生産していた初期モデルと比べて軽量で、消費電力を大幅に抑制し、有効波長の光量アップを図ったことが認められ、「2019年度 省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門 審査員特別賞」(主催:一般財団法人省エネルギーセンター)を受賞しました。この受賞は、日本のモノづくり技術の素晴らしさを再認識する良い機会となりました。

  • 省エネ大賞授賞式の様子
  • 改良型の「みどりきくぞう®」

 しかしながら、一個あたりの販売価格は5千円で、既存の電照設備にそのまま取り付けて使用できるものの、広大な圃場をカバーする個数を設置した場合、イニシャルコストは高額となります。収穫量が10~20%の増収となると、2年程度で投資額を回収できる計算にはなりますが、更なる普及拡大に努めていくためには、これまで以上にコスト削減に努めていく必要があることから、現在、新たなモデル開発に努めております。

  • 生産農家様の視察状況
  • 展示会等での「みどりきくぞう®」のPR
Q.「みどりきくぞう®」というユニークな商品名をつけた理由について。

 「緑色の光に効果がある=効き目がある=利く」から転じて「みどりきくぞう®」という駄洒落で付けたのですかとよく聞かれることがあります。

 確かに、他の類似商品との差別化を図る意味において、ユニークな名前を付けた側面もありますが、農業を営む生産者の多くは高齢化が進んでおり、「覚えやすく効果と名前を結び付けやすい」との理由から、この名前に落ち着きました。今では、この名前に愛着があり、名付けて良かったなと思っています。

Q.「みどりきくぞう®」に関する思い出の中で一番印象的な出来事は。

 2018年7月に発生した西日本豪雨をきっかけに、「みどりきくぞう®」を通じて復興支援のお手伝いができたことが強く印象に残っています。
 毎年、全国各地で自然災害が発生し、甚大な被害が発生しておりますが、このときの豪雨も愛媛県と広島県、岡山県など被害が広範囲に及び、尊い人命が失われるなど、大変痛ましい出来事でした。

 その豪雨被害を受けられた被災者の中に、愛媛県西予市で30年以上シンビジウムを栽培されている有限会社フローラルクマガイ様がいらっしゃいます。設備の壊滅的な被害を目の当たりにした熊谷社長は、出荷までに5年程度の歳月を要するシンビジウムを諦め、トマトやイチゴへの品目転換による再起を決意されました。そして、ありがたいことに、その栽培技術に「みどりきくぞう®」を採用していただけることになったのです。
 ご相談を受けて現地訪問したときは、設備の残骸の跡が痛々しく感じられましたが、豪雨から半年後に定植したトマトは、今では「くまさん農園 うるるんトマト」として地域のブランド商品となっており、2021年に一般社団法人日本有機農業普及協会が開催した「栄養価コンテストの春夏ミニトマト部門」で最優秀賞を受賞しました。また、豪雨から1年後に定植したイチゴも、トマト同様、「くまさん農園 うるるんイチゴ」としてブランド化されています。

 長年、シンビジウムの栽培事業に携わってきた熊谷社長が、豪雨により全てを失い、花から野菜への品目展開を図ることは、大変勇気が必要な決断であったと思います。その決断を農業電化技術によって微力ながら支援できたことを大変嬉しく思っているほか、こうした生産者様とのご縁を大切にしていきたいと考えています。

熊谷社長と同社ブランド「うるるんトマト」
Q.今後の抱負について。

 四国電力グループでは、2018年10月に設立した「あぐりぼん株式会社」のほかに、2020年11月には「Aitosa(アイトサ)株式会社」を設立するなど、地域の農業支援を行う活動を積極的に展開しております。このうち、Aitosa株式会社は、高知県の主要産品である「シシトウ」の生産を通じた産地の維持・拡大に努めておりますが、同社においても「みどりきくぞう®」を導入され、生産現場の省力化につながるスマート農業を支援しています。

Aitosa株式会社における「みどりきくぞう®」を活用したシシトウの生産状況

 また、地元の香川大学と希少価値の高い国産ライチの減農薬・スマート栽培技術の研究開発を進めております。ライチの栽培にも植物の抵抗力を高める効果のある「みどりきくぞう®」を有効活用しており、現在、ライチの病害虫や生育への影響を評価しています。

 ご存知のとおり、ライチは気候の異なる我が国での栽培は困難とされ、宮崎県や鹿児島県などごく一部の地域でのみしか生産されていません。このため、国内で流通しているライチの多くは海外からの輸入品ですが、2015年の植栽以降、「みどりきくぞう®」をはじめとする弊社の農業電化技術を効果的に活用する一方、長年の研究で培ってきた経験とノウハウも駆使しながら、5年目で結実させることに成功しました。

 全国的にも珍しいライチの栽培成功は、大変大きな反響を呼び、各地から事業化に向けた問い合わせも多数受けています。このため、「みどりきくぞう®」の普及拡大を図ることは言うまでもなく、ライチについても栽培に関するコンサルティング支援を行うなど、これからも地域の農業や産業振興に貢献していきたいと考えております。

「みどりきくぞう®」を活用したライチの栽培状況