コンクリート柱用鉄筋破断非破壊診断装置「CPチェッカーM<sup>®</sup>」開発秘話

 高速道路や橋梁などの公共設備は、我が国の経済活動を支える重要な社会インフラ設備ですが、高度経済成長期に建設された設備が多く、近年、経年劣化が顕在化しております。

 当社が開発した鉄筋破断非破壊診断装置「CPチェッカーM®」は、電力柱等のインフラ設備を壊すことなく、現地で容易にその健全性を測定・評価できる装置として注目されています。今回、研究・開発メンバーの高岡研究員に、開発に至る取り組みを聞きましたのでご紹介いたします。

  • 新型CPチェッカー「CPチェッカーM®3D」の機材一式
  • 開発メンバーの高岡研究員
Q.なぜ、本装置を開発しようとしたのですか。

 全国に約3,600万本あると言われている電力柱や通信柱も、暮らしや産業活動を支える重要な社会インフラ設備です。景観保全の観点から、行政による電力柱の地中化工事も進められていますが、一方で5G基地局や防犯カメラの設置など、新たな利用方法も検討されています。

 こうした電力柱等の有効活用を考えていく上で、避けて通れないのが老朽化の問題です。他のインフラ設備と同様、設置から長期間が経過しているものが全国各地に多数存在しており、老朽化に伴う折損事故を未然に防ぐ観点から、その健全性を評価するための技術開発が喫緊の課題となっていました。

Q.本装置を開発しようと考えた目的やねらいについて教えてください。

 電力柱は、実際には全てがコンクリートの塊ではなく、内部は空洞になっています。外側のコンクリートの中には、細長い鉄筋が圧縮されて挿入されており、圧力が均等にかかる円柱形に成型することにより、一定の強度を保つように設計されています。

 しかしながら、コンクリートや鉄筋等も、経年劣化により耐久性が損なわれた場合、折損する可能性が高まります。四国地域では、昭和44年から平成5年に製造されたコンクリート柱(旧規格品)で折損事故が多発したことを踏まえ、平成6年2月以降、鉄筋破断に対応した仕様変更が行われる一方、点検や建て替え基準の策定、定期検査の実施など、知見の収集と更なる安全対策が推進されるようになりました。

 CPチェッカーM®は、こうした折損事故を防ぐため、非破壊かつ簡便な方法でコンクリート製電柱の鉄筋破断を検出するために開発した装置です。CPチェッカーのCPとは、コンクリート柱(Concrete Pole)の略で、電力柱や通信柱などは全てコンクリート製であることから、それを診断する意味でこの名前が付けられました。

(参考)旧規格電柱の折損事故事例(自然災害・物損事故を除く)

Q.開発にあたって重視したポイントは

 一言で言えば、簡単に持ち運びができ、非破壊で鉄筋の破断を診断できるという点です。

 一般的に「電柱」と呼ばれるものには、電力柱や通信柱以外に、信号柱などもあり、膨大な数を点検するためには、軽量で持ち運びが便利であり、何より表面を傷つけることなく、現場の状況に併せて非破壊で、簡単に鉄筋の破断を検査できる装置でなければなりません。

 そこで着目したのが、漏洩磁束法です。その原理は磁石の性質を応用したもので、強磁性体である鉄筋を利用して、磁石ユニットで対象となる鉄筋を磁化させ、磁気センサを搭載したセンサユニットで鉄筋直上の磁束密度を測定します。鉄筋を磁化させた場合、破断箇所には磁石端としてS極とN極が発生するため、鉄筋の上を磁気センサで走査した(なぞった)時の出力波形において、大きく極性が変化する(S字カーブを描く)部分を見つけることで破断箇所を特定することができます。つまり、この漏洩磁束法がCPチェッカーのポイントです。

  • 現地での点検の様子・内部鉄筋の破断の様子
  • 破断波形の一例
Q.開発機器の性能について、どのように評価されていますか。

 CPチェッカーは、おかげさまで、2004年の販売開始以降、電力、通信、鉄道、交通などの各種インフラ点検・検査業務を行っている事業者にご導入いただいているほか、担当者の方からも「手軽で使い勝手がよく、便利である」とのコメントが寄せられるなど、高評価をいただいており、2011年には第18回芦原科学大賞も受賞させていただきました。

 今回、新型CPチェッカーとして「CPチェッカーM®3D」を開発しました。

「CPチェッカーM®3D」は従来品と比較して、更なる小型軽量化(重量比1/2)、新型センサによる3軸磁束密度測定と測定レンジ拡大、2段階スクリーニングによる鉄筋破断検出性能の向上、バッテリ持続時間の大幅延長(50時間)などにおいて性能が向上しています。

Q.研究開発の過程で苦労されたポイントは。

 今回の新型CPチェッカー「CPチェッカーM®3D」の開発にあたっては、より確実に鉄筋破断を検出するために、電柱の内部鉄筋の構造を模擬したモックアップと呼ばれる模擬電柱を作成し、これを用いて間隔や位置が異なる多様な鉄筋破断を模擬することで、最適な検出パラメータの調整を行いました。また、現場で使用する装置ですので、高温・低温・振動環境などの環境試験も行い、それに対する製品改良なども行いました。

 更に、社内だけでなく、関係会社やお客様にもお願いして開発品の試用を行っていただき、その結果を反映した改良も行いました。

 そのため、CPチェッカーM®3Dの試作は早々に完成していたのですが、その後の確認や評価において長い時間がかかりました。かけた時間の分だけ、良い仕上がりになっていると期待しています。

Q.今後の抱負について。

 CPチェッカーM®3Dは、コンクリート製電柱の点検作業において、小型軽量化による点検作業の負荷軽減や、より詳細な破断箇所の検出機能の追加などを目標として新たに開発しました。

 しかしながら、実際の作業では点検する電柱の数は多く、人手で点検を行う装置であるため、点検にはまだ時間を要しています。今後は、これらの点検作業全体を更に細かく分析し、着磁・破断検出の走査回数を減らすことや、事例データ収集により電柱設置場所の状況や環境から破断確率や破断箇所を想定することなど、細かい知見を積み上げていくことで点検作業全体を省力化できるような技術開発を進めていきたいと考えています。

 今後とも、特別な知識や訓練、資格なしで容易に非破壊検査ができる本装置の普及を通じて、国が進める社会資本整備にいささかなりとも貢献できるよう、研究を進めてまいります。